副題は「もう一つのIT」。
明治時代から現代までの主に国内における軍用鳩・伝書鳩・レース鳩の歴史について記した本。今では知る人も少なくなったエピソードが数多く含まれている。
一九一九(大正九)年にフランスから多数の鳩を輸入すると共に共感も招き、本格的に軍用鳩の研究を始めている。その結果、陸軍ではシベリア出兵を皮切りに、満洲事変から日中戦争にかけて鳩通信を実用化し、太平洋戦争においても前線で活用していた。
(第一次世界大戦で)重要地点に設けられていた有線通信網は、敵軍に発見されてことごとく破壊され、頼みの無線通信機は故障がちで、いざという時には全く役に立たなかった。結局、砲煙弾雨の最前線で危険な通信の任務を果たしたのは、科学技術が創り出した機器類ではなく、鳩だったのである。
(関東大震災後)九月中旬にようやく機械通信が復旧するまでの間、通信面に関しては、ほとんど伝書鳩の独り舞台の観があったと言われている。結局、十一月初旬に戒厳勤務が終了するまでの間に鳩が運んだ通信件数は、二千七百余通にも達した。
湾岸戦争は、ハイテク兵器や軍事衛星や高度な通信システムが駆使され、最先端のテクノロジーの戦争と言われたが、万一、衛星通信網が使えなくなった場合に備えて、スイスが自国軍から三千五百羽の伝書鳩を多国籍軍に貸与したのである。
国内の通信社・新聞社では1960年頃まで伝書鳩が用いられていた。スイスの伝書鳩部隊は1994年に廃止されるまで続いていたとのこと。そんな最近まで、とびっくりする。
伝書鳩は通信文や写真を運ぶだけでなく、輸血用の血液のサンプルや人工授精用の牛の精液も運んだそうだ。現代のドローンのような役割も果たしていたということだろう。
・伝書鳩の歌
https://matsutanka.seesaa.net/article/480698315.html
・軍用鳩の歌
https://matsutanka.seesaa.net/article/480869084.html
・さらに軍用鳩の話
https://matsutanka.seesaa.net/article/480891612.html
伝書鳩・軍用鳩については、今後もいろいろと調べてみたい。
2000年12月20日、文春新書、680円。