2023年09月14日

染野太朗歌集『初恋』


現代歌人シリーズ37。
2016年から2018年の作品を収めた第3歌集。

ことば奪はず声を奪ひて吹く風の冷たし卒業式の朝(あした)を
赤羽とおんなじ味のハンバーグをデニーズ熱海店に食ふさへ愉し
西部ガスのさいぶがすといふ読み方のいよいよ住むといふ感じする
米研げば五指にまつはる米粒の、怒りよもうことばを喚(よ)ぶな
排泄にちからふるつてゐる猫のいつさいを見つ春待つごとく
水切りに興ずる人を見下ろして真夏の橋でぼくはとどまる
海原に落暉は道をとほしたりその最果ての民宿〈浦島〉
にごり湯の湯舟三畳ほどなるが十畳ほどの浴場にあり
尿 濃い で検索をする日々にしてこころちひさくなりにけるかも
ひととゐて自分ばかりを知る夜の凧をあやつるやうにくるしい

1首目、学校が生徒にとってどういう場であるかを考えるのだろう。
2首目、旅先に来ていると思うだけで、いつもとは気分が違うのだ。
3首目、埼玉から福岡への転居。「せいぶ」ではない読み方が新鮮。
4首目、上句から下句への展開がいい。胸の怒りを鎮めようとする。
5首目、いきむ猫の姿に存在感がある。結句の付け方がおもしろい。
6首目、橋と川の構図が鮮やかに見え、夏の空気感が伝わってくる。
7首目、船で甑島へ行く場面。海にのびる光の帯に導かれるように。
8首目、昔ながらの共同浴場の感じ。「三畳」「十畳」が効果的だ。
9首目、病気かもしれないと不安に思いつつ、とりあえず検索する。
10首目、比喩がうまい。自分の感情や思いを制御するのが難しい。

2023年7月11日、書肆侃侃房、2200円。

posted by 松村正直 at 08:42| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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