2023年08月24日

中井スピカ歌集『ネクタリン』

本阿弥書店
発売日 : 2023-07-31

2022年に「空であって窓辺」30首で第33回歌壇賞を受賞した作者の第1歌集。399首を収めている。

カタカナが多いのが特徴で、カタカナの使われている歌が235首と歌集の6割近くにのぼる。さらにタイトルもカタカナだし、作者名にもカタカナがある。

はつなつのベーカリーから溢れ出すシナモンロールはみんな右巻き
季節ごと花の名前を変えているパスワードあり今はyuugao
誰の子も可愛くなくて丘をゆく私は欠けた器だろうか
胃に肺に土足で踏み込む母がいてそこにマティスの絵などを飾る
イチゴジャムブルーベリージャム毎日は二色しかなくなんてカラフル
冬の苺がケーキの上に散らばって大人のほうがずっと寂しい
寒気団去りゆく予報 ポトフから昇る蒸気にオレガノを振る
機関車の車輪のごとく腕回しコーヒー豆を君は砕きつ
川はもうよそよそしい顔 越してゆく私に橋を渡らせながら
展開図少し違えて二人して牛乳パックを真白く開く

1首目、結句「みんな右巻き」がいい。全体に明るい気分が満ちる。
2首目、夏はユウガオなのだ。他の季節は何だろうと想像が膨らむ。
3首目、子を持たない自分の人生に迷ったり悩んだりする日もある。
4首目、押しの強い母なのだろう。マティスの強烈な色彩が浮かぶ。
5首目、赤か紫のジャムをパンに塗って、毎日仕事に出かけていく。
6首目、そう言えば子どもの頃は大人も寂しいのだと知らなかった。
7首目「寒気団」と「蒸気」が重なり合って、食卓の風景が膨らむ。
8首目、動輪とロッドの動きが鮮やかに浮かび君の力強さが伝わる。
9首目、見慣れた風景が別のものに見えてくる。「渡らせ」がいい。
10首目、誰かと一緒に住むとはこうした差に気づくことでもある。

2023年7月31日、本阿弥書店、2400円。

posted by 松村正直 at 09:04| Comment(3) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
カタカナ歌の数を数えていただき、恐縮です。
カタカナが多いことは自覚していたのですが、6割とお聞きし、驚いてしまいました・・・
中でもカタカナ成分の多い「イチゴジャムブルーベリージャム」を含め、10首評をありがとうございました。
Posted by 中井スピカ at 2023年08月24日 20:33
中井さん、コメントありがとうございます。
簡単なご紹介しかできず恐縮です。
表紙の色やイラストも良かったです。
Posted by 松村正直 at 2023年08月24日 20:54
表紙、ありがとうございます!
Posted by 中井スピカ at 2023年08月24日 21:56
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