副題は「一攫千金の夢と南洋進出」。
アホウドリを基点に近代日本の海洋進出について描いた内容で、とても面白かった。鳥類の捕獲や鳥糞(グアノ)の採取、リン鉱の採掘と帝国日本の膨張がリンクしていたことがよくわかる。
舞台となるのは、鳥島、小笠原諸島、南鳥島(マーカス島)、尖閣諸島、沖大東島(ラサ島)などの現在の日本の領土だけでなく、遠くミッドウェー島、ウェーク島、北西ハワイ諸島、アンガウル島、プラタス島(東沙島)、パラセル諸島(西沙諸島)、スプラトリー諸島(南沙諸島)にも及ぶ。
撲殺したアホウドリの数は、一八八七年一一月の鳥島上陸からわずか半年間に一〇万羽、一九〇二年八月の鳥島大噴火で出稼ぎ労働者一二五人が全滅するまでの一五年間では、およそ六〇〇万羽に達した。
早くから羽毛は輸出品であり、一八八〇年代〜一九二〇年頃にかけて、日本は世界の婦人帽などの主要な原料供給国であった。羽毛に加えて明治一〇年代後半から、鳥類のはく製の輸出も盛んになった。
太平洋の無人島の発見や開発、領有をめぐっては、日本人同士あるいは日米間でさまざまな摩擦が起きている。さらには、実際には存在しない島の領有を宣言する事態まで生じた。
(一九〇八年)七月二十三日に、この件が閣議決定され、ガンジス島は中ノ鳥島と名称を変えて、「帝国」に日本の領土に組み入れられた。
この中ノ鳥島が、日本の領土から消えるのは、第二次世界大戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が日本の行政権の範囲を決定した一九四六年のことで、「発見」から三九年後である。「帝国」日本は、「幻の島」を長く領有したのである。
本書に登場する島々の中には、太平洋戦争で日米の戦闘が行われた島もあり、また現在も国同士が領有権を争う島もある。誰も住まない小さな島であっても、国家の領土問題と無縁ではいられないのだ。
明治以降、日本が南方の多くの無人島を編入したことで、今日の排他的経済水域、すなわち海洋資源や水産資源が確保される二〇〇カイリの海域と領海を合わせた面積は、四六五万平方キロメートルと、日本の国土の一二倍にもなり、世界第六位の広さを持つことになつたのである。
今から考えると驚くほど粗末な船や装備で無人島へと乗り出していった明治期の日本人たち。そこには歴史的に見れば負の側面もあるのだけれど、その勇気や度胸にはやはり驚かされる。
2015年3月20日、岩波新書、780円。