歌人入門シリーズの7冊目。
このシリーズは読みやすくて入門編にちょうどいい。
夕暮れを何とはなしに野にいでて何とはなしに家にかへりぬ
霜やけのちひさき手して蜜柑むくわが子しのばゆ風のさむきに
つながれてねぶらんとする牛の顔にをりをりさはる青柳の糸
さくら見に明日はつれてとちぎりおきて子はいねたるを雨ふりいでぬ
ぬぎすてて貝ひろひをる少女子が駒下駄ちかく汐みちてきぬ
今読んでも新鮮さが伝わってくる歌が多い。「短歌の最初の一滴はここからにじみ出た」と解説にある通りだ。
直文は江戸時代の終わりに伊達藩の重臣の家に生まれた。当然、明治の四民平等の世になっても、ルーツである「武士」は強く意識されていただろう。
直文は、通りすがりの他者を描くのがとても上手い。心に触れたその情景を過不足ない言葉でさっと捉える。
直文は、守旧派と改進派のはざまにいて、双方に活を入れ、提案できる貴重な存在であった。実際、古今の古典・漢文をとことん学び、和歌をものし、そのよさを十分知り抜いている直文だからこそ、その言が聞き入れられたところはある。
気仙沼市生まれの著者にとって、地元出身の歌人落合直文は身近な存在なのだろう。直文の歌の魅力とともに、和歌改良・革新に果たした役割がよく理解できる一冊である。
2023年5月21日、ふらんす堂、1700円。