アララギ発行所編『灰燼集 大正十二年震災歌集』(1924年)を読んでいる。「アララギ」の同人・会員159人の詠んだ震災詠計931首を収めたアンソロジーだ。
その中で、浅草観音(浅草寺)を詠んだ歌が目に付く。
浅草寺は焼けず
十重二十重炎みなぎる中にして観世音菩薩あはれまします
草生葉爾
浅草観音堂
たふとさよなべてほろびし焼原にかくし残れる観音の堂
池田清宗
浅草観音堂境内にて、救はれしといふ友に逢ふ
み堂やけばすべてむなしと念じたる命尊し救はれにけり
鹿児島寿蔵
九月四日本所に住む浪吉を気づかひ行く途中浅草寺にて二首
焼け跡のちまたを遠く歩み来てしみじみあふぐ浅草のみ堂
ことごとく焼け亡びたる只なかになほいましたまふ観世音菩薩
藤沢古実
浅草観世音を憶ふ三首
もろともに過ぎばすぎめどうつつ世になほ残りたまふ御ほとけの慈悲
土田耕平
浅草観音堂
焼原にのこるみ堂をいつくしみうれしさ充ちて詣でけるかも
平福百穂
とにかく浅草観音を詠んだ歌が多い。震災による火災で甚大な被害を受けた東京の下町にあって、浅草観音は奇跡的に延焼を免れたのであった。
「関東大震災100年 浅草寺 焼け残りの謎を追う NHK」
https://www.nhk.or.jp/shutoken/shutobo/20230711a.html
『灰燼集』の歌からは、猛火を退けて多くの避難民の命を救った浅草観音への畏敬の念と、焼けずに残った建物に希望を見出す心情が伝わってくる。