全日空のPR誌「ていくおふ」に連載された文章をまとめたもの。全国にある12の個人美術館の訪問記である。
「たかもく本の店」で購入。2002年刊行の新書だが、20年くらい前の本を読むのも意外といいのかもしれない。例えば、この本で言えば、20年経過した今も12の美術館すべてが(市町村合併で名称の変ったものもあるが)残っている。そこに、著者の眼力を認めることができるだろう。
個人美術館は、いろいろな作家のものを一堂に集めた県立美術館などに比べると作品の量が少なく、展示室を三つ、四つまわるともうロビーにもどっている。この小ささがとても都合がいい。
個人美術館は作家の郷里だったり、アトリエのあった場所だったり、人生の大半を過ごした土地だったりと、ゆかりのある場所に建てられていることが多い。日帰りのできる近さでも、かならず美術館の近くに宿をとって一泊した。
たったひとつの美術館のために、飛行機や電車やバスを乗り継いで出かけていく。思えばずいぶん贅沢な旅である。だが、たどりつくまでの時間や労力が大きければ大きいほど、そこで出会う一点に目を凝らそうとする思いも強くなる。
こうした著者の考えに共感し、納得する。
人は五十歳に近づくと、これまで歩んできた道程を振り返り、人生のはじまりを確認しようとする。土門は酒田を再訪したとき四十八歳だった。故郷を思うのにいい時期だったように思う。(土門拳記念館)
ノグチの作品を西洋と東洋の融合のように見るのはつまらない。彼が求めたのは東洋・西洋という区分けが存在する以前の世界にむかうことだった。人が自然との交感を求めて物を造った時代に旅立とうとした。(イサム・ノグチ庭園美術館)
各美術館の展示に関する解説も行き届いている。好著。
2002年9月20日、文春新書、680円。