2022年9月のNHK「100分de名著」のテキスト。
知里幸恵『アイヌ神謡集』が刊行されてから今年で100年。番組は見られなかったのでテキストだけ読む。
口承文芸にはこれが原本だというテキストはありません、それは語り手によってそのたびに創造され、そのたびに完成するものなのです。
当時すでに、アイヌの伝統的な生活は過去のものになりつつありました。(…)それは、ニㇱパという言葉が「お金持ち」と訳されていることにも表れています。二ㇱパというのは日本語にしにくい単語で、本来は、狩りなどが上手で、カムイからの覚えもめでたく、豊かな生活を送っている立派な人という意味です。
同化論とは、アイヌの人々がそれまでの文化や生活を捨て去り、和人と肩を並べて和人として生きていくのが最も望ましいとする考え方のことです。これは金田一独自の考え方ではありません。当時の為政者も進歩的な文化人と呼ばれる人たちも、みんなこのような考え方をしていたと思われます。
つまりアイヌ語は、日本語にも外国語にも入らない言語で、それを言い表す言葉は日本語にはないのです。『アイヌ神謡集』が岩波文庫で赤色なのは、このことと無関係ではありません。アイヌ文学はどこにも入らない、「日本文学」ではないということで、仕方なく外国文学に入っているのです。
岩波文庫の『アイヌ神謡集』は8月に補訂新版が刊行されるとのこと。これを機にさらに多くの人に読まれるといいなと思う。
https://www.iwanami.co.jp/book/b629847.html
2022年9月1日、NHK出版、600円。