副題は「新美南吉の詩を歩く」。
新美南吉の詩に魅せられた著者が、南吉の故郷の半田市などを訪ね歩き、その生涯をたどった一冊。後半には南吉の詩21篇と幼年童話6篇も収めている。
南吉と言えば「ごん狐」などの童話が有名だが、実は童謡も含めると約550篇もの詩を残しているのだそうだ。タイトルの「人間に生れてしまったけれど」も南吉の詩「墓碑銘」の一節から取られている。
引用されている南吉の日記や手紙の言葉も印象深い。
文学で生きようなどと考へて一生を棒にふつて親兄弟にまで見はなされてこつこつやつてゐるのは神様の眼から見ていいことなのか悪いことなのか、そこのところもよく解らない
僕はどんなに有名になり、どんなに金がはいる様になつても華族や都会のインテリや有閑マダムの出て来る小説を書かうと思つてはならない。いつでも足に草鞋をはき、腰ににぎりめしをぶらさげて乾いた埃道を歩かねばならない
こんどの病気は喉頭結核といふ面白くないやつで、しかも、もう相当進行してゐます。朝晩二度の粥をすするのが、すでに苦痛なのです。生前(といふのはまだちよつと早すぎますが)には実にいろいろ御恩を受けました、何等お報いすることのなかつたのが残念です。
「ふるさと文学散歩」1〜4は地図と写真入りで、南吉の生家や墓、勤務先の小学校、杉治商会、高等女学校などの場所を紹介している。南吉作品とふるさとの風土の結び付きの強さをあらためて感じた。
2023年3月22日、かもがわ出版、1700円。