2023年06月06日

高橋博之『都市と地方をかきまぜる』


副題は「「食べる通信」の奇跡」。

2013年に食べ物付きの情報誌「東北食べる通信」を創刊した著者が、食と命、都市と地方、民主主義と当事者意識といった問題について記した本。関係人口という概念の創出や「食べる通信」の全国化など、具体的で実践的な内容となっている。

地方も行き詰まっているが、都市もまた行き詰まっている。そして、都市の行き詰まりを解決しえるものが、地方にはある。ならば、都市が地方を支える、助けるという議論とは別に、私たち地方が都市を支える、助けるという議論を堂々と展開していっていいのではないか。
生きる実感とは、噛み砕いていえば、自分が生きものであるということを自覚、感覚できるということ。生命のふるさとである海と土から自らを切り離してしまった都市住民が生きる実感を失っていくのも、当然のことではないだろうか。
田舎から都会に出ていく回路は、進学、就職と圧倒的に広い。対して都会から田舎に出向く回路は、観光と移住しかない。これをさらに拡大するには、関係人口という考え方で定期的に通ってくる人たちを増やすことだと思う。
繰り返すが、人間は食べないと生きていけない。その意味でこと職に関しては、すべての国民が当事者といえる。なのにこれまでの一次産業は、農家と漁師だけが当事者として孤軍奮闘してやってきた。私たち消費者も当事者なのに、観客席で高みの見物をし、まるで他人事だった。

かなり明確な理論と哲学があり、それに基づいて事業を展開している様子を見て取ることができる。一方で、現実の世界は理想通りには行かないことも多いようだ。

2016年の時点で「食べる通信」は全国34地域にまで広がり、それを100に増やすという目標が本書には掲げられていた。けれども、実際は2017年の41地域をピークに、その後は休刊や廃刊が続き、現在は22地域にまで減っている。
https://taberu.me/league

どこに誤算があったのだろう。

2016年8月20日、光文社新書、740円。

posted by 松村正直 at 19:10| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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