2023年05月29日

千葉俊二編『新美南吉童話集』


新美南吉が読みたくなって岩波文庫の童話集を買った。

「ごん狐」「手袋を買いに」「赤い蝋燭」「最後の胡弓弾き」「久助君の話」「屁」「うた時計」「ごんごろ鐘」「おじいさんのランプ」「牛をつないだ椿の木」「百姓の足、坊さんの足」「和太郎さんと牛」「花のき村と盗人たち」「狐」の14篇と評論「童話における物語性の喪失」を収めている。

童話はたぶん子どもの頃にほとんど読んだことがある。ストーリーを思い出すものが多かった。でも、当然ながら読み方は昔と違う。時代の移り変わりによって失われるものへの眼差しが印象に残った。

これだけ世の中が開けて来たのだと人々はいう。人間が悧口になったので、胡弓や鼓などの、間のびのした馬鹿らしい歌には耳を籍(か)さなくなったのだと人々はいう。もしそうなら、世の中が開けるということはどういうつまらぬことだろう、と木之助は思ったのである。/「最後の胡弓弾き」
どこの家のどこの店にも、甘酒屋のと同じように明かるい電燈がともっていた。光は家の中にあまって、道の上にまでこぼれ出ていた。ランプを見なれていた巳之助にはまぶしすぎるほどのあかりだった。巳之助は、くやしさに肩でいきをしながら、これも長い間ながめていた。/「おじいさんのランプ」

こうした出来事は今ではさらに頻繁に、短いスパンで、当り前のように繰り返されている。もう童話に書かれることさえないままに。

1996年7月16日第1刷、2019年6月14日第28刷。
岩波文庫、740円。

posted by 松村正直 at 22:10| Comment(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私が子供の頃に読んだのは講談社文庫版の『童話集 ごんぎつね 最後の胡弓ひき』でした。標題作以外に「白い壁」「張紅倫」「神さまのめぐみ」「アブジのくに」「のら犬」「おじいさんのランプ」「百姓の足・坊さんの足」「うた時計」「空気入れ」「狐」「かぶと虫」「いぼ」「牛をつないだ椿の木」「鳥山鳥右ェ門」の14編が収められていました。
「白い壁」は、許嫁との婚礼を控えたお城の若様が放浪の旅に出てしまうというような話で、読んだ当時は「何て無責任な・・・」と思いましたが、同作品は南吉が中学生時代に書いた言わば習作で、大人になってから少年の憧憬が解ったような気がしました。若様は「西行法師のように歌を詠みながら」旅をした、という設定だったと思います。
若様がイナゴが口から出した汁が乾くとねちねちして、たまリ(醤油)のようだなと思ったとか、「張紅倫」が万年筆を売りに来たとか、「アブジのくに」では店のおばさんが息子のためにセーターを編んであげているとか、細かいエピソードばかり鮮明に覚えています。そう言えば清廉潔白≠ニいう四文字熟語を覚えたのは「うた時計」でした。
先日帰省した際、現在無住になっている自宅にあったのを見かけたので、今度帰ったとき読み返してみようと思います。
Posted by 小竹 哲 at 2023年05月30日 09:42
小竹さん、コメントありがとうございます。
「細かいエピソードばかり鮮明に覚えて」というのは、よくあることですね。そういう意味では、文学作品はストーリーや結末よりもむしろディテールが大事なのかもしれません。
愛知県の半田市に行ったおかげで、新美南吉に俄然興味が湧いてきました。名作「ごんぎつね」も南吉の草稿「権狐」と比べると、「赤い鳥」掲載時にかなり鈴木三重吉の添削が入っているようで、いろいろと考えさせられます。
Posted by 松村正直 at 2023年05月31日 11:25
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