空隙に「あはれ」を嵌めて了(をは)りたるちやぶ台のうへの推敲あはれ/『日々の思い出』
「あはれ」で終わる短歌は近代短歌でもよく見かける。自嘲気味に詠みつつ、最後に「あはれ」を使っているのが面白い。
傘立てに傘立てにけり靴箆(べら)に靴はきにけり「に」のはたらきよ/『草の庭』
「傘立てに」は場所を示し、「靴箆に」は手段を表している。広辞苑で調べると格助詞の「に」だけでも18通りの意味がある。
とりあへず叙景をしたり網膜に焦点むすぶ柿を感じて/『静物』
まずは叙景が大事。
てにをはが出たり入つたりで山竜胆(やまりんだう)が歌になつたりならなかつたり/『滴滴集』
「てにをは」によって歌が完成する。
イカの一片つるつるとして挟みがたし歌つくるときのはじめに似たる/『山鳩集』
最初の取っ掛かりが難しいということだろう。そこを越えれば、後は何とかなっていく。
わが希(ねが)ひすなはち言へば小津安の映画のやうな歌つくりたし/『梨の花』
目標は小津安二郎!
歌つくるは魚(うを)釣るごとし虚空よりをどる一尾の鯉を釣り上ぐ/『サーベルと燕』
魚が掛かるまでじっと待つ。しかも、海や池ではなく「虚空」から釣るのだ。