1914(大正3)年に誕生した宝塚歌劇の大正期の歴史やエピソードなどを記した本。「一九八三年春より大劇場公演はほぼ全公演観劇」という宝塚ファンの著者の熱意が、全篇に満ち溢れている。
1918(大正7)年創刊のPR誌「歌劇」を丹念に読み込んで、そこから多くの情報を引き出している。主要な記事だけでなく読者投稿欄にも目を配り、公的な資料には残らないような観客の本音や団員の日常、そして時代の雰囲気などを描き出しているのが特徴的だ。
当初の小林の構想では〈花組〉と〈月組〉ではなく、〈雪組〉と〈月組〉だったのである。
当時は男役もソプラノで歌っていたのである。
こうして創生期の宝塚にあってその礎を築いた高砂だが、不思議なことに歌劇団の公式の年史には殆んど出てこない。
つまり劇場には履き物を脱いで入場するのが、当時は当り前だったのだ。
新しい娯楽や文化を生み出そうとした宝塚の熱気と苦闘の跡が生々しく甦ってくる。作家たちの試行錯誤やニセモノの少女歌劇団の出現などのエピソードも楽しく、またスペイン風邪や関東大震災といった歴史上のできごととの関わりも印象に残る。
一つ一つの細部を積み上げていくことで、大正時代の人々の姿や暮らしがよく見えてくる。また、宝塚や関西といった地域の特徴も出ており、結果的に東京を中心とした歴史の見方や描き方を相対化する役割を果たしている。
宝塚少女歌劇に関する本なのだが、それだけではない。宝塚を通して見えてくる大正時代の歴史や文化を描いた一冊にもなっているのだ。
雑誌「歌劇」からの引用に対して、ところどころ著者が、「了見違いも甚だしい」「だめだこりゃ」「チケットを買う前に誰か教えたりぃや」などとツッコミを入れているのも面白かった。
2023年3月29日、集英社インターナショナル、1800円。
当時の宝塚の生徒や「歌劇」投稿者が詠んだ歌も随所に引いておりますので、読者各位にはそんなところもお愉しみいただけましたら幸甚です。
取り急ぎ御礼申し上げます。
宝塚は一度も観たことがないのですが、この本はとても面白かったです。いろいろと興味が湧いてきました。短歌との関わりのことなど、明日にでももう一回書くつもりです。