「歌人入門」シリーズの5冊目。
寺山修司の短歌100首の鑑賞に加えて、解説「歌人・寺山修司―超新星の輝き」を収めている。鑑賞文は1首あたり250字と短いが、寺山短歌の魅力や特徴がよく伝わってくる。
短歌表現を一人称のみならず、三人称に解放したところにも寺山修司の大きな功績がある。
悪霊はドストエフスキーを、外套はゴーゴリを連想させる。こういう用語を使って、一つのイメージを醸しだす技法は寺山の得意とするところ。
作中人物に現実の事件を投影してリアリティを獲得する方法も、寺山の多彩な技法の一つである。
印象に残った歌を引いておく。
わがカヌーさみしからずや幾たびも他人の夢を川ぎしとして
/初期歌篇
小走りにガードを抜けてきし靴をビラもて拭う夜の女は
/『空には本』
きみが歌うクロッカスの歌も新しき家具の一つに数えんとする
/『血と麦』
外套掛けに吊られし男しばらくは羽ばたきゐしが事務執りはじむ
/『テーブルの上の荒野』
父といて父はるかなり春の夜のテレビに映る無人飛行機
/『月蝕書簡』
わが息もて花粉どこまでとばすとも青森県を越ゆる由なし
/『田園に死す』
2022年6月23日、ふらんす堂、1700円。