動物倫理学の立場から、動物福祉、肉食、動物実験、動物園や水族館、狩猟、ペットの飼育、動物性愛といったさまざまな問題について考察した本。
倫理学の初歩から始まって、応用倫理学としての動物倫理学の歴史や考え方、人間中心主義の問題点など、順序立ててわかりやすく解説している。
現代において倫理的な問題となる動物としては、馬の重要度は低い。(…)ところがかつては馬こそが最も身近にあり、かつその扱いに深刻な倫理的問題があると広く意識されていた動物だった。
ルイス・ゴンぺルツの名は今日、動物擁護者や元祖ビーガンというよりも、一般には発明家として知られている。しかし彼が自転車を発明したのは、それによって動物を救うためだったという真相はほとんど知られていない。
(…)人種差別批判自体が悠久の歴史を持つ人類史に普遍的な価値ではなく、最近までの歴史過程によって勝ち取ってきた成果だということである。ならば種差別批判がおかしいという感覚も、それは今現在の遅れた権利意識であり、すぐには無理でもやがては常識化する可能性がないとはいえないだろう。
現在のブロイラーは極限的な品種改良によって驚くべき速度で急激に肥大化し、信じられないほど早く出荷できるようになっている。孵化から実に二月と経たずに成長のピークに達し、食肉加工されてゆくのである。
私は肉食もするし動物園も好きで、本書の主張に沿った生活はほとんどしていない。それでも、動物倫理学の考え方を知っておくのは大切なことだと感じた。今後、避けては通れない問題だろう。
2021年3月22日、集英社新書、880円。