2023年05月07日

尾崎左永子『自伝的短歌論』

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雑誌「星座―歌とことば」67号(2013年秋)から82号(2017年夏)まで連載された文章をまとめたもの。毎回添えられている本人の自筆イラストが、かわいくて良い味を出している。

タイトルの通り、著者の自伝であり、また歌論である。生い立ち、戦時中の暮らし、放送業界での仕事、青年歌人会議の活動、アメリカでの生活といった話と、短歌の型や声調、息遣いなどに関する論が含まれている。

なにしろ大人数、大家族の時代で、少し関わりのある縁戚、紹介されて来た人、そういう人たちを抱えて、家族同然に暮らすのが、当時の東京山手の邸の、当り前の生活だった。
(『さるびあ街』について)この命名はしかし、佐藤先生の激怒を買った。「何だ、この『モルグ街の殺人』みたいな題は」そうでなくても無口で、一語一語に重量感のある佐太郎の一喝。首を縮めたが、私はひるまなかった。
良い歌なら、つっかえないで読み下せるはずなのである。もし言いにくいところがあれば、それを眼で読む読者側の頭や心には、完全な形で映すことは不可能、ということになる。
現代では、「歌」は目で読む、つまり黙読するものと思い込んでいる人がかなり多いが、歌が生まれたら、小声でもよいから「音声」に出してみると、歌作の良否がはっきり判るもの、という事実を、一度はっきり認識するべきであろう。

佐藤佐太郎、中井英夫、木俣修、寺山修司、大西民子、北沢郁子、富小路禎子、馬場あき子たちとの交流も書かれていて、戦後短歌史の貴重な記録になっている。

2019年6月3日、砂子屋書房、2500円。

posted by 松村正直 at 16:35| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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