副題は「失われたカムイ伝説とアイヌの歴史」。
北海道各地を訪れて、博物館や史跡、記念碑、自然などを見て歩き、北海道の成り立ちやアイヌの歴史について考える紀行文。
著者の文体は多少乱暴なところがあるけれど、自分の眼で見て自分の頭で考える姿勢が一貫しているところに惹かれる。タクシーやレンタカーは使わず、鉄道やバスなどの公共交通機関と徒歩だけで移動しているところにも共感する。
この山丹交易の一環に、樺太との交易を通じてアイヌも参加し、中国製品を得ていた。北海道から樺太経由で中国大陸まで通じる交易の道――北のシルクロード。/アイヌは交易を通じ「世界」とつながっていた。北海道に閉じこもり、黙々と狩猟採取を行っていたイメージを持たれがちだが、そんなことはないのだ。【函館:北方民族資料館】
第19代目の徳川義親(よしちか)さんがスイスのベルンに行ったとき(優雅だね)木彫り熊を見て持ち帰り、八雲に木彫り熊が伝わった。ちなみにベルンは「ベア」つまり熊のことで、街の中に熊を飼う公園があり、街角で木彫り熊も売られていたという。【八雲】
明治初期に逮捕された犯罪者たちの多くは、殺人や窃盗など明確な悪事を働いたわけではなく、結果的に新政府に逆らった人々だった。彼らは囚人の汚名を着せられて、極寒の大地で過酷な労働を強いられた。【札幌:月形樺戸博物館】
室蘭は、昔は「モルラン」と呼ばれ、アイヌ語の「モ・ルエラニ」〜「小さな・下り坂」に由来する。目の前に延びる、この細い坂道の辺りで「室蘭」の名は生まれた。【室蘭】
世界遺産、日本遺産そして北海道遺産。名所や文化の保存と伝承を名目に「遺産」に認定して、実はその裏で観光収入増加を目論む、利権の奪い合いがある。また「遺産」の名がついた場所には、自身の旅先すら選ぶ価値観がない人々が、群れを成して押し寄せる。【稚内:北防波堤ドーム】
ここ数年、北海道では鉄道の運休や廃止案が相次いでいる。もともと利用客が少なかったところに、天災が直撃し、復旧に巨額の費用をつぎ込んでも回収が見込めない路線が多い。広大な北海道で、鉄道は移動の命綱なのだが、どうなってしまうのだろうか。【静内】
2015年から7年かけて道央、道南、道東、道北をくまなく歩いた著者の感じたのは、北海道経済の衰退と過疎化の進行、そして軽薄な観光振興の姿であった。
2020年のウポポイ開業をはじめ、近年アイヌに関する話題が増えているが、歴史的・文化的な理解を深めることなくただ観光に利用しようとする姿勢にも、著者は繰り返し異議を唱えている。
2022年7月19日、ユサブル、1800円。