2023年04月12日

島田修三『短歌遠近』


副題は「短歌でたどる戦後の昭和」。
2020年1月から2年間、「中日新聞」「東京新聞」に毎週連載された文章をまとめたもの。

「戦争孤児」「結核」「力道山」「東京タワー」「安保闘争」「あしたのジョー」「カップヌードル」「企業戦士」「ソ連解体」など、99のトピックに関する短歌を取り上げ、戦後の昭和の歴史や暮らしの様子を描き出している。

【練乳】
 昭和の子なれどもわれは練乳を苺にかけた記憶のあらず
            花山多佳子『鳥影』
苺は甘さの対極にあった。今の甘い苺からは想像できないほど酸っぱい果物だったのだ。

ああ、そう言えばそうだったと思い出す。わが家では練乳ではなく、苺に砂糖と牛乳をかけて、スプーンで潰して食べていた。今の苺なら、そんなことをしなくても十分に甘いのだけれど。

【バキューム・カー】
 去りし日の馬車をおもへばしづかなるひとみの馬は屎尿を
 はこぶ        小池光『草の庭』
いつのまにか家々の屎尿の汲み取りにバキューム・カーが導入されていたことも変化のひとつだった。これは子供心にも画期的な進歩のように思えた。

私の生家も水洗トイレではなく汲み取り式のトイレで定期的にバキュームカーが来ていた。子供の頃(昭和50年代)それが恥ずかしくて仕方がなかったのだけれど、なるほど、バキュームカーが最先端だった時代もあったのだ。

私は昭和45年生まれなので、本書に記されたトピックにも、知らないこと、話にだけ知っていること、リアルタイムで知っていることが混ざっている。

一方で昭和25年生まれの著者にとって、戦後の日本を振り返ることは、すなわち自らの人生を振り返ることでもあったのだろう。アメリカに対する愛憎半ばする思いなどが率直に記されている。

2022年10月10日、風媒社、1500円。

posted by 松村正直 at 11:52| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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