「せせる」「ピンはね」「三角乗り」「おためごかし」「やにさがる」など、俗な言葉や懐かしい言葉、不思議な言い回しを取り上げ、辞書で意味を再確認しつつ軽妙に論じるエッセイ集。
亜紀書房のウェブマガジン「あき地」に2017年2月〜2018年8月にかけて連載した文章に、書き下ろしなどを加えてまとめている。
教師をつづけるうちにわかってきたが、はしっこいのは二十代、三十代の前半あたりまでは活躍する。気の利いた論文を書く。だが、そのうち音沙汰なくなって、どこにいるのかもわからない。
米ぬかは江戸時代には、いたって高価なものだった。米そのものが日常の食として、そうそう口にできないし、ぬかは精米でしかとれない。玄米食がふつうであったことを考えると、想像のつかないほど米ぬかは貴重なものだった。
酒好きの方は、これまたご承知だろうが、酒は少し過ぎるころあいがいちばんうまい。身体と酒が一体となり、両者の区別がつかないといった感じ。やや飲み過ぎはわかっているのに、まさにその峠を越したあたりが、とくに味わい深く、楽しくてしかたがない。
以前にも書いたが、池内さんは私の大学時代の先生である。アーチェリーばかりやっていて真面目にドイツ文学には取り組まなかったけれど、もともと池内さん目当てに大学を選んだのだった。
私は手書きである。紙にペンで書く。編集者によると、もはや圧倒的少数派であって、百人に一人もいないらしい。(…)パソコンでは直し、入れ替え、自由自在だというが、別にどうとも思わない。直さないのが、もっとも自由だろうと考えている。
ほんとうに自由な人だったなと思う。それは「百人に一人もいない」ことを意に介さない姿勢ともつながっている。
2019年6月21日、亜紀書房、1600円。