2023年03月07日

藤島秀憲『山崎方代の百首』


「歌人入門」シリーズの6冊目。

山崎方代の歌集から100首を取り上げて、鑑賞を付している。右ページに短歌、左ページに鑑賞という形になっていて読みやすい。

単なる一首評×100ではなく、全体として山崎方代の人生や歌の特徴が見えてくる内容となっている。さらに、巻末には解説「「自分」を求めて」がある。

方代は小道具の使い方が絶妙である。小道具によって心境をくっきりと浮かび上がらせることができる。
ユーモアと切なさ、ぬくもりと冷たさ、美しさと醜さ、聖と俗、生と死、愛と失望といったように、方代の歌は相反するものに片足ずつ突っ込んでいる。
方代の歌の素材はそう多くない。身の回りにあるもの(その最たるものは自分自身なのだが)が素材の中心。一つのものを何度も繰り返し歌う。
完全に消化しきった自分の言葉で表現することの大切さを方代は身をもって示したと思う。借りて来た言葉や着飾った言葉を方代は一切使わなかった。
方代というと口語のイメージが強いが、いやいや実は文語の人で、文語と口語の匙加減に四苦八苦した人。数限りない推敲が行われたことだろう。

他にも、「「石」は方代短歌の重要なキーワード」「字足らずはしばしば使われたテクニック」「リフレインを方代は多用した」といった大事な指摘が数多くある。

方代の歌の魅力がよく伝わってくる一冊だ。その背後には、「山崎方代は常に私の隣に居てくれた」と記す著者の愛情が詰まっている。

2023年2月19日、ふらんす堂、1700円。

posted by 松村正直 at 08:54| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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