シリーズ「遺跡を学ぶ」139。
徳島県鳴門市にあった「板東俘虜収容所」の歴史や実態について記した本。1917年から1920年にかけて、第1次世界大戦で捕虜となったドイツ兵約1000名を収容した施設である。
現在も残っているドイツ兵の慰霊碑やドイツ兵捕虜が建設したドイツ橋などのほか、発掘調査によって判明した遺構のについても詳しく記されている。
この収容所では音楽、演劇、美術、スポーツなどの文化活動も盛んで、1918年にはベートーヴェンの交響曲「第九番」の日本初の全楽章演奏が行われている。
収容所の所長は旧会津藩出身の松江豊壽。
松江は徳島・板東での所長時代、「捕虜に甘い」という警告や非難を軍部から受けていたが、つねに敗者をいたわるという信念を貫いた。「敵をも敬う」ことを信念とした行動は、松江の父が会津藩士であったことが大きく影響していたと考えられる。
副官は高木繁。彼は陸軍を退役後に大陸に渡り、7か国語を操る語学能力を生かしてハルビン特務機関で働いていたようだ。
第二次世界大戦後にソ連軍の捕虜となり、一九五三年四月三〇日にソビエト連邦スヤンドロフスク州アザンの病院で六八歳で死去したと伝えられている。
何とも数奇な運命だと思う。
板東俘虜収容所跡と鳴門市ドイツ館には、ぜひいつか行ってみたい。
2019年10月1日、新泉社、1600円。