副題は「労働と思索」。
1971年に刊行された『波止場日記』(新装版は2002年)をもとに新たに編集したもの。
沖仲士(港湾労働者)として働きながら思索と著述を続けた「波止場の哲学者」エリック・ホッファー(1902‐1983)が、1958年6月1日から翌年5月21日まで付けていた日記。
主な内容は、日々の仕事のことや政治や社会についての考察、知り合いの妻子との付き合いなど。東西冷戦下のソ連に対する嫌悪や官僚などの知識人に対する批判がしばしば出てくる。その一方で、移民の国であるアメリカの大衆に対しては強い信頼を置く。
無知は極端に走りがちである。これはおそらくあたっているだろう。自分の知らないことについての意見はどうもバランスのとれた穏健なものではなさそうだ。
ある社会の活力を判断するには維持能力をみるのがもっともよい。どんな社会でもなにかの建設のためにしばらくのあいだ活気づくことがある。しかし毎日よく手入れする意欲と技術はまれにしかみられない。
うんざりした日になるのは、きまって仕事のせいではなく、ときどき仕事に伴って生ずる不愉快なことのためである。性急さ、争論、あつれきなどで、疲労し、また気落ちするのである。五分間口論するよりも五時間働いた方がいい。
私が満足するのに必要なものはごくわずかである。一日二回のおいしい食事、タバコ、私の関心をひく本、少々の著述を毎日。これが、私にとっては生活のすべてである。
偶然というものがなかったら、人生はどんなに味気ないものになるだろう。祈りや希望は皆偶然を求めているのである。現実にどこかに向っているとの感をわれわれに与えるのは、ほとんどの場合、時機を得た偶然のできごとである。私の知るかぎりでは、人生は偶然の十字路であるがゆえにすばらしい。
引用したい箇所が他にもたくさんある。
続きは、また次回に。
2014年9月10日第1刷、2020年1月10日第4刷。
みすず書房、3600円。