2023年02月15日

山本命『松浦武四郎入門 改訂版』


昨年、松浦武四郎記念館に行った時に購入した本。
著者は記念館の館長。

幕末の探検家であり、また多方面で才能を発揮した松浦武四郎(1818‐1888)の生涯と功績を、わかりやすくまとめている。これ一冊で一通りのことがわかるようになっていてありがたい。

武四郎は、常に野帳(のちょう)と呼ばれるフィールドノートと矢立(筆記具)を持ち歩き、旅先で見聞したことをメモやスケッチにして、のちに書物にまとめました。探検家であると同時に、ルポライター、編集者、出版社でもあったのです。

記念館で野帳の実物を見たけれど、本当にすごい。横長の小型の帳面にびっしりと動植物や風景などがスケッチされていた。

一五歳の頃には、鈴を愛した松阪の国学者本居宣長が集めた鈴の絵を、松阪屈指の豪商長谷川家で見せてもらい丁寧に模写したり、気に入った骨董品を見つけては買い集めていった。

こうしたところに、当時の松阪の発展ぶりや文化レベルの高さをうかがうことができる。

武四郎は数多くの和歌を残したことでも知られている。68歳で大台ヶ原に登った時に詠んだ歌について、こんなふうに書かれている。

優婆塞(うばそく)もひじりもいまだ分け入らぬ深山の奥に我は来にけり

紀伊半島の霊場には役行者(役小角)が開いた大峰山、弘法大師(空海)が開いた高野山がある。「優婆塞」とは役行者、「ひじり」とは弘法大師のこと。「二人が訪れたことのない深い山の奥に私は来ている。大台ヶ原を開山するのはこの私だ」という意気込みが感じられ、武四郎の探検家精神は老いてなお衰えていないことがわかる。

武四郎の和歌については、今後何かの形できちんと取り組んでみたいと思う。

2018年3月1日初版第1刷、2022年4月24日改訂版第1刷。
月兎舎、1200円。

posted by 松村正直 at 06:36| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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