2023年02月09日

永井亘歌集『空間における殺人の再現』

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第9回現代短歌社賞を受賞した作者の第1歌集。
シンタックスのずらし方やイメージの連鎖に特徴がある。
1頁1首組で、装幀もかなり凝っている。

向日葵でだらしなく死ぬ 飛び起きて また向日葵でだらしなく死ぬ
生きるとは死体はないが探偵は文字をひらめく棺のように
惑星は遠く照らされながら死ぬ 気づくと君の顔を見ていた
言葉にはさせないつもり 秋風にさからって手をつないで歩く
晴れた日のスノードームは輝いてもう残酷な不機嫌ばかり
カナリアが微笑みながらどの声のあなたが老いていくのだろうか
どの人もリュックサックにかすりつつちゃんと他人になって降りていく
ベランダで凭れる君はひとときの暮れゆく空の影であること
ある晴れた午後にフランスパンを買う 川の向こうを覚えていたら
夕焼けが山の緑になじんだら心はコイントスで消えるね

1首目、「向日葵で」は比喩とも読めるし変身したのだとも読める。
2首目、生きている間はまだ死体は存在しないけど、ということか。
3首目、下句がいい。二つの星の関係性がふたりの顔と重なり合う。
4首目、初二句が印象的。この強引さに相手への思いの強さが滲む。
5首目、スノードームの景が楽しかった日々の記憶のように明るい。
6首目、声もまた老いてゆくのだ。歌を忘れたカナリアも思い出す。
7首目、「ちゃんと」がおもしろい。現代版袖振り合うも多生の縁。
8首目、シルエットになった君の姿を、部屋の中から見つめている。
9首目、下句の付き方が実に不思議。現在ではなく未来の話なのか。
10首目、コインが掌に隠れるように、心が夕焼けに吸い込まれる。

2022年12月25日、現代短歌社、2200円。

posted by 松村正直 at 09:04| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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