副題は「大正文豪ミステリ事始」。
「中央公論」大正7年7月臨時増刊「秘密と開放号」掲載の小説5篇と戯曲2篇、さらに関連する随筆2篇を収めたアンソロジー。
・佐藤春夫「指紋」
・芥川龍之介「開化の殺人」
・里見ク「刑事の家」
・中村吉蔵「肉店」
・久米正雄「別筵」
・田山花衣「Nの水死」
・正宗白鳥「叔母さん」
大正期の小説家が書いたミステリだがどれも面白い。特に「肉店」はゾッとするような迫力があった。
また、北村薫の解説「大正七年 滝田樗陰と作家たち」も素晴らしい。27ページにわたって様々な蘊蓄を傾けていて、一つの作品になっている。
もう一つ、「刑事の家」の登場人物が「ツルゲエネフの散文詩集」を読んでいるのも印象的。啄木にも影響を与えた本だが、当時の人気のほどがうかがえる。
2022年3月25日、中公文庫、840円。