姫路市文化国際交流財団が発行する地域季刊誌「BanCul」(播州カルチャー)に掲載された作品18篇を収めた本。
姫路市出身の著者が、取材に基づく実話と創作を織り交ぜた文章を書いている。播州の自然や暮らし、産業、時代の移り変わりなどが巧みに浮かび上がる内容だ。
聞き書きのような体裁の小説とでも言おうか。どこまでが事実でどこからが脚色なのか、はっきりとわからない虚実皮膜の味わいである。
兵庫県福崎町出身の歌人、岸上大作の名前も出てくる。
名前を岸上大作といい、神経質そうな顔に眼鏡をかけていた。啓一が幼いころに極端な恐がりだったと聞くと、声をたてて笑って、自分もそうだったといった。スイボウは「水莽」と書いて中国からきた毒草だと教えてくれた。
そして、著者が高校時代に短歌を詠んでいたことも書かれている。
高校生の私は数学ができず、もっぱら短歌に熱中していた。寺山修司が先鞭をつけ、全国の高校生に短歌や俳句のブームがあった。最初の女性誌が出たころで、文芸欄に姉の名前で投稿して賞金をせしめた。
そうだったんだ、池内先生。
2020年11月16日、神戸新聞総合出版センター、2000円。