副題は「シベリア捕虜の内面世界」。
シベリア抑留の制度や政策よりも抑留者の内面世界に焦点を当てた抑留の社会・文化史。数々の資料に基づき多くの抑留者の軌跡を追っている。ただ、他の媒体に発表した文章やロシア語資料の翻訳なども混ざっていて、全体にやや雑多な印象を受ける。
よく「シベリア抑留」と一括りにしますが、実際はソ連でいわれるシベリアは、ウラル山脈の東側で、極東(沿海地方、ハバロフスク地方、及びその北部)までの間です。日本人が抑留されたのは、旧ソ連のほぼ全域に及んでいました。
現在の国名で言えば、カザフスタンやウクライナにも「シベリア抑留」者は送られていたのである。地図を見るとその範囲の広さに驚かされる。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、旧ソ連の満州侵攻やシベリア抑留を重ねる論調を見かけるが、少なくともウクライナは当時「旧ソ連」の一部であった事実は押さえておく必要があるだろう。
日本人捕虜が送り込まれたのは、ウクライナでもドニエプル河左岸の東部であった。
「ザポロージエ」や「ハリコフ」などウクライナの5か所の収容所に、ドイツ兵とともに日本兵も収容されていたのであった。
映画「ラーゲリより愛を込めて」の主人公のモデルになった山本幡男に関する記述もある。
ハバロフスク収容所第二一分所で「アムール句会」がまずは三人から結成されたのは、一九五〇年の夏だった。選者は山本幡男で、東京外語学校出身、満鉄調査部からソ連事情分析など固い仕事ばかりしていたが、発会に当り「俳句は人なり」と人間を磨くことを強調した。
映画には引揚げ船を泳いで追いかけて日本に移住した犬が出てくるのだが、これが実話であることを本書で知った。やり過ぎな演出だなあと思って観ていたのだけれど。
2022年6月25日、朝日選書、1600円。