2020年に「Victim」30首で短歌研究新人賞を受賞した作者の第1歌集。「塔」「えいしょ」「半夏生の会」「のど笛」所属。
うん……までは言った記憶が残ってる喫茶店、チェーンじゃないどこか
着るだけで痩せるって書いてあったのを着ながら想う日本の未来
本名で仕事をやっていることがたまに不思議になる夜勤明け
おみやげは人数に足りないほうがみんなよろこぶような気がした
水・日でやってるポイント5倍デー そのどちらかで買うヨーグルト
差し出したポイントカードがここじゃないほうので ちょっと笑ってもらう
Amazonで2巻と3巻を買ってメールでおすすめされる1巻
洗濯が自動で終わる 乾燥も 生きてる意味がわからなくなる
夕立が 泣く、って涙が出てるってことじゃないじゃん 屋根を打ってる
いつかあなたの目の前でやって見せたいよ涎の出るような眠り方
1首目、別れ話だろうか。周辺の部分は消えてしまった記憶の感じ。
2首目、右肩上がりの時代とは異なる現代の空気感がよく出ている。
3首目、本名も数あるハンドルネームなどの名前の一つに過ぎない。
4首目、もらえる人ともらえない人に分かれると、もらいたくなる。
5首目、ヨーグルトを買う点に限れば水曜日と日曜日は等価である。
6首目、レジの人が笑ってくれたので、ミスを救われた気分になる。
7首目、当然1巻は持っているのにAIにはそれがわからないのか?
8首目、自分がいなくても洗濯物は仕上がるし、社会も回っていく。
9首目、挿入句の上下二字アケ。悲しくても涙が出ないことはある。
10首目、無防備な姿を相手の前にさらけ出すことのできる関係性。
2022年11月1日、短歌研究社、1700円。