2022年11月17日

大崎善生『将棋の子』


2001年に講談社より刊行された単行本の文庫化。
第23回講談社ノンフィクション賞受賞作。

日本将棋連盟で働き「将棋世界」の編集長を務めた著者が、プロ棋士養成機関である「奨励会」(新進棋士奨励会)について記した作品。過酷な競争の果てにプロになれず去っていった退会者たちの、その後を描いている。

同じ札幌出身で親しかった成田英二を訪ねて北海道へ行く話を軸に、戦いに敗れた退会者たちの物語が群像劇のように展開する。世代的には羽生善治の前後に当たる者たちの話が多い。

羽生は55勝22敗で6級から初段をかけ抜けた。ということは、奨励会対羽生は22勝55敗、誰かがその55敗を引きうけていることになる。しかも、それは羽生だけに限らず、羽生とそれほど遜色のない勝率でここまで勝ちあがってきた57年組全員に対していえることなのである。つまり、57年組の嵐が吹き荒れる間、奨励会は沈没船や難破船の山となっていたはずなのだ。

1勝の影には必ず1敗があり、勝者の向こうには必ず敗者がいる。プロになれずに去っていく者の方が、人数で言えば圧倒的に多いのだ。そして、その後も人生は続いていく。

2003年5月15日第1刷、2020年10月28日第27刷。
講談社文庫、700円。

posted by 松村正直 at 07:43| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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