勝ちが見えれば指が震へる人間羽生四十九歳になりてをりたり
25歳で将棋界の7つのタイトルを独占し、今では永世七冠の資格を有する羽生善治九段。そんな天才もまたAIとは違う「人間」であって、勝ちを意識すると駒を持つ指が震えるというのだ。
勝ちを読み切った際の羽生の指の震えは、将棋ファンにはおなじみの話。この歌が印象的だったのは、小池が同じく羽生について以前こんな歌を詠んでいるからである。
「将棋に人生を持ち込むと甘くなる」羽生善治言へりわれら頷く/『静物』(2000年)
約20年経て詠まれた二つの歌を比較すると、小池の短歌に対する考えの変化を窺うことができる。小池の歌集にはこんなふうに、かつての歌とつながる歌が数多く潜んでいる。