長年勤めた新聞社を退職し、浅草・田原町に書店「Readin' Writin' BOOKSTORE」を開業した著者が、新聞記者時代の経験や書店開業に至る経緯、そして開業後のできごとについて記した本。
近年、数を増やしているセレクト系、独立系の個人経営の書店の開業記だ。
芥川賞や直木賞などのニュースに即応して平積み展開する本屋を「FAST MEDIA」、返品できない代わりにロングセラーに軸足を置くうちのような本屋を「SLOW MEDIA」と定義してみる。
1000円の本が売れたとして手元に残るのは200〜300円。本屋だけの稼ぎで暮らしていくのは不可能に近い、というのが開店5年目に入った僕の実感だ。
店では本を売るだけでなく様々なイベントも行っていて、コロナ禍前には年間100回以上も開催していたとのこと。歌人の鈴木晴香さんの短歌教室の話も出てくる。
最初の教室で鈴木さんは「短歌は自分の気持ちは書きません。情景を書きます」と話した。ライティングの個人レッスンで僕も同じようなことを話している。短歌を詠んだことは一度もなかったが、共通点があることを知り、うれしかった。
文章は読みやすいのだが、けっこう癖が強い。オヤジの自慢話的な口調がのぞく部分もあって、好みの分かれる一冊だと思う。
2021年9月30日、光文社新書、940円。