全体が2章構成になっていて、T章の「芸術」と二章の「性」に分かれている。
T章は、物議を醸した絵画作品「犬」シリーズ6作について、その制作過程や動機、芸術をめぐる問題などについて論じたもの。U章は、幻冬舎のPR誌やウェブマガジンに計9回連載された文章で、「性」に関する考察が記されている。
自作や自分について記すのは難しく苦しいものだと思うが、T章U章ともに著者の真摯で率直な姿勢が滲み出ていて良かった。
明治になって西洋から「洋画(油絵)」が入ってきた時、それに対立するものとして、無数の人々によって人工的に作られたのが、「日本画」という概念および文化ジャンルである。明治以前にはその言葉はなかった。
この「岩絵具問題」に限らず、「物質的フェイク/にもかかわらず・だからこそ/(目指せ)精神的本物」というコンセプトは、私の全美術作品に共通する特徴になってゆく。
『犬』の第一の目的は、「日本画維新」であって、「悪」はそのための手段に過ぎなかった。あるいは「エロティシズム」も。どちらも、この作品では主題として全力を傾けて追求されているものではない。
私がたずさわっている仕事は「現代美術」であり、そのことを保証しているのは、私の作ったものに批評性が宿っているからだ。逆に言えば、批評性がなくなったら、その時点で作ったものは「現代美術」の範疇から外れてしまう
芸術とは何か――そもそも「芸術」と「芸術じゃないもの」の線引きは、近年ますます難しくなってきています。「美しいものが芸術」「感動させるものが芸術」といった素朴な定義は、だいたいひい爺さんの時代に終わりました。
「絵画」や「美術」「芸術」についての話であるが、もちろんこうした問題を「短歌」に置き換えて考えることもできるだろう。
2022年7月20日、幻冬舎、1600円。