2018年7月にPHPより刊行された『世界史を大きく動かした植物』を改題し、加筆・修正して文庫化したもの。著者は近年、驚異的なペースで次々と面白い本を出している。
本書は、さまざまな植物が人間とどのように関わり、人の暮らしや歴史を変えてきたのかを解説したもの。取り上げられているのは、コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ワタ、チャ、コーヒー、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、チューリップ、トウモロコシ、サクラ。どれも食材や嗜好品や鑑賞用として身近なものばかりだ。
双子葉植物は茎の断面に形成層という導管と師管から成るリング状のものがあるのに対して、単子葉植物では形成層がない。このように単子葉植物の構造が単純だが、じつは単子葉植物の方が進化した形なのだ。
自然に恵まれた豊かな地域と、自然に恵まれない地域があった場合、農業が発達するのは後者である。
香辛料が持つ辛味成分は、もともとは植物が病原菌や害虫から身を守るために蓄えているものである。冷涼なヨーロッパでは害虫が少ない。一方、気温が高い熱帯地域や湿度が高いモンスーンアジアでは病原菌や害虫が多い。そのため、植物も辛味成分などを備えている。
世界で最も多く栽培されている作物はトウモロコシである。次いでコムギの生産量が多く、三位はイネである。トウモロコシ、コムギ、イネという主要な穀物は世界三大穀物と呼ばれている。四位がジャガイモ、五位がダイズであり、食糧として重要なこれらの作物に次いで生産されているのがトマトである。
植物学×世界史という組み合わせで、知らなかった話や意外な話がたくさん載っている。読み終えて、「人類の歴史は、植物の歴史でもある」という著者の言葉に納得した。
2021年9月23日、PHP文庫、820円。