2022年09月26日

筒井清忠編『大正史講義【文化篇】』


大正時代の文化に関して24名の執筆者の書いた計27篇の論稿をまとめた本。

民本主義、国家主義、大正教養主義、童謡運動、新民謡運動、女子学生服、大衆文学、時代小説、漫画、大衆歌謡、映画、百貨店、カフェーなど、幅広い分野の話が載っている。

また、取り上げられている人物も、吉野作造、上杉愼吉、西田幾多郎、夏目漱石、宮沢賢治、北原白秋、鈴木三重吉、西條八十、竹久夢二、岡本一平、小林一三と多岐にわたる。

日本の学生マルクス主義の特徴として、はなはだ教養主義的傾向が強いということが指摘されうるだろう。それは、何よりも「西欧古典崇拝」の傾向が両者ともに強いという共通性に窺える。
漱石はこの新興勢力(岩波書店:松村注)の象徴的存在となり、漱石文学の普及と大正教養主義の隆盛、そして岩波書店の発展の三つが相乗効果を生み、それぞれの威信の上昇につながったと考えられる。
年表的には、大正時代は大正天皇の即位とともに始まるが、文学の面、さらに広くいえば文化史的には日露戦争の終結から始まっている。それはちょうど、昭和時代が文化の面では、大正十二年の関東大震災のあとの帝都復興、モダン都市東京から始まっているのに似ている。
むしろ、前近代社会の方が、謡の共通性が高く、近代化されたこの時代になって人々は地域的差異化、ローカリズムの確立を望んだのである。
住吉や御影が神戸市に編入されるのは昭和二五(一九五〇)年であり、この両地域が「阪神間モダニズム」として語られるのは、大正末昭和初期は、神戸市外だったからである。

ジャンル横断的に多くの論が含まれているが、その背景にある大正という時代の輪郭が、読み進めるうちに色濃く浮かび上がってくる。

2021年8月10日、ちくま新書、1300円。

posted by 松村正直 at 18:50| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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