2022年09月20日

佐藤通雅歌集『岸辺』


2017年から2021年の作品484首を収めた第12歌集。

「ツクシタ」とは「クツシタ」のことクツはいて幼と散歩に出かけんとして
期間限定安売り墓地の広告を二日とりおき三日目に捨つ
ジンシンジコ ダイヤノミダレ カタカナで事を思ひてたれもが静か
人の在処さらに捜すをあきらめし角封筒が汚れて戻る
おもちや病院開設されて神妙なる面持ちしたる子どもら並ぶ
読経中の婦人のやうだがいやちがふ数独の枠を凝視してをり
駅ピアノに人は寄り来て一曲を早瀬のごとく弾いて去るなり
消(け)残れる雪は童子の象(かたち)にて手をあげそして逆立ちもする
師といふを持たざるわれはヒメツバキ一枝(いつし)折りきて卓上に置く
原稿用紙に書くこと絶えてたまたまに用紙開けばただに美し

1首目、幼子の言葉に一瞬ドキッとする。誰に「尽くした」のかと。
2首目、墓地もこんなふうに売られているのか。複雑な気分になる。
3首目、意味のない言葉として処理される。人が死んでいるのだが。
4首目、擬人法が効果的。さんざん探し回って疲れ切った姿である。
5首目、本当の病院のように、あるいはそれ以上に神妙な顔つきだ。
6首目、ぶつぶつ声を出しながら考えているところ。「枠」がいい。
7首目、「早瀬のごとく」がいい。駅ピアノはまさにこんな感じだ。
8首目、日が経つにつれて変わる形を子ども動きのように見ている。
9首目、50年以上、個人誌「路上」を拠点にしてきた矜持が滲む。
10首目、原稿用紙に手書きで文字を書いていた頃を懐かしむ思い。

他に、前立腺がんの治療に関する歌も印象的で、また「大川小学校津波裁判」に関する一連も重い問い掛けとして胸に残った。

2022年7月15日、角川文化振興財団、2600円。

posted by 松村正直 at 20:08| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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