2016年に白水社より刊行された単行本に新たに3篇を加えて新書化したもの。
台湾に生まれ、父の仕事の関係で3歳の時に東京に移り住んだ著者が、言葉や国語や国家や民族について記したエッセイ集。第64回日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。
自らが慣れ親しんだ日本語だけでなく、両親の使う中国語や台湾語も含んだ「ニホン語」を駆使して、著者は思索を深めていく。「ニホン語」について考えることは、自らのアイデンティティを問うことであり、また東アジアの近現代史を知ることでもあった。
わたしの祖母は、中国語で教育を受けたのではない。祖母が少女の頃の台湾では、日本語が「国語」だった。一九四五年、第二次世界大戦が終結するまで、台湾は日本の統治下にあった。
台湾の「国語」事情に思いを馳せるとき、「国語」という思想を支える「国家」なるものの本質的な脆さを、わたしは感じずにはいられない。台湾で暮らす人々が、ときの政府の方針一つで、「大日本帝国」の「臣民」にも「中華民国」の「国民」にもさせられる
歴史の可能性の一つとして、征服者の言語であった日本語は、朝鮮、台湾、旧満州地域等における「国際共通語」となる可能性を孕んでいた。
台湾語だけを使っていた曾祖父母の世代、日本語が国語であった祖父母の世代、中国語が国語になった父母の世代、そしてニホン語を使う著者。4世代に渡って言語状況は目まぐるしく変っている。
その断面や亀裂にこそ、最も現代的で生き生きとした歴史や文化が顔を覗かせているのだ。
2018年9月25日第1刷、2021年6月25日第5刷。
白水社Uブックス、1400円。