副題は「田中角栄が描いた路線網」。
1972(昭和47)年に刊行されて1年間で91万部の大ベストセラーとなった田中角栄の『日本列島改造論』。そのうちの鉄道政策に焦点を当てて、この50年間を検証し、今後の鉄道のあり方を考察する内容である。
1922(大正11)年に制定された鉄道敷設法の改正法は、1987(昭和62)年に廃止されるまで実に65年間も効力を持った。同じように1970年(昭和45)年に成立した全国新幹線鉄道整備法は、50年以上経った今も施行中である。
『日本列島改造論』に描かれた「全国新幹線鉄道網理想図」をなぞるように整備新幹線や基本計画線を定めた国策は、それから半世紀が経った令和の今もなお、我が国の高速鉄道政策の根幹として効力を有していることは、日本国民にもっと知られてもよい事実ではないだろうか。
国全体で人口が減少し、自家用車の保有率が高まり、少子高齢化の進む日本において、ローカル線をはじめとした鉄道網をどのように維持していくかは、現在、大きな課題となっている。
不採算路線の存廃問題や大規模災害の被災路線の復旧という問題が現実化する過程で、民営化が万能の理論ではなく、やはり一定程度の公共の関与や支援がなければ地方交通や広域ネットワークの永続的な維持は難しいケースもあるのだ、という方向へ、日本社会全体が再び軌道修正しているように見受けられる。
一つ一つの路線の話に終始するのではなく、国全体の鉄道政策の新たなグランドデザインを示すことが、今まさに必要となっているのだ。
2022年6月15日、交通新聞社新書、990円。