2022年07月04日

鈴木竹志歌集『聴雨』

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2013年〜2021年の作品460首を収めた第3歌集。

冬枯れの畑に来たりて餌を探すつぐみに声をかけたくなりぬ
矢面に立つこと苦し大方の矢は避けたれどたまに避けえず
エアコンの風にやうやく慣れるころ秋風といふ天然ものが
元気よく優先席を目指しゆく老いの一人にわれもなりたり
本屋さんの棚に並びて背を見せて本のいのちが灯りはじめる
幸せがここにあるよといふ顔でクリームパンを食べゐるをみな
次々に黄色い帽子が乗り込みて教室となる朝の地下鉄
可動式書庫なれど本が溜まりてこの先は可動不可能にならむ
神保町巡ればうれし佳き本が目ざとくわれを見つけてくれる
わが母が好みて舐めしコーヒー飴買ふこともなしスーパーヤオスズ

1首目、餌の少ない時期なので、応援したい気持ちになるのだろう。
2首目、批判を受ける立場に立たされてしまう。結句に実感が滲む。
3首目、自然の涼しい風を食材に喩えている。「天然もの」がいい。
4首目、批判や皮肉かと思って読むと結句でユーモアに転じている。
5首目、本は書店に並んでこそという思い。本を愛する心を感じる。
6首目、美味しそうに食べる様子。見ている方も幸せな気分になる。
7首目、幼稚園で遠足にでも行くところか。車内の風景が一変する。
8首目、深刻な事態だが「可動不可能」が言葉遊びのようで面白い。
9首目、古本との出会いは一期一会。本が私を見つけてくれるのだ。
10首目、母の亡くなる時の歌。よく買って持って行ったのだろう。

本を愛する作者で、本のタイトルを詠み込んだ歌も多い。

『トリサンナイタ』『あやはべる』『青眉抄』『みだれ髪』『遠き橋』『忘路集』『山西省』『北窓集』『婦負野』『宮柊二歌集』『墨汁一滴』『流木』『落葉樹林』『四月の鷲』『群黎』『白秋のうた』『松本奎堂』『赤光』『曇り硝子』など。

2022年6月26日、六花書林、2500円。

posted by 松村正直 at 19:28| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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