明治以降の近代国民国家において「国民」の枠組みから疎外された人々(ハンセン病療養者、徴兵忌避者)、あるいは天皇や「女こども」の作品を通じて、国家と国民の関係や国民意識のあり方を描いた評論集。
国民国家の中核ではなく周縁の人々に焦点を当てることで、むしろ近代日本の姿が浮き彫りになる。その視点が非常に鮮やかだ。
近代短歌、とりわけ投稿短歌は、作者の名前とともに発表されるものとして定着していた。〈詠み人しらず〉ではなく、短歌が署名入りの文学だったことは、ハンセン病療養者にとっては特別な意味をもつことであった。
当時二十代半ばだった前川佐美雄は、「革命の短歌」であるプロレタリア短歌に引かれ、一方で「短歌の革命」ともいうべきモダニズム短歌にも引かれていた。
国家と戦時体制に背を向けて〈徴兵忌避者〉として生きることは、逆に身体的・精神的な不自由を引き受けることにもなり、家族など多くのものを犠牲にせざるをえないという逆説が伴っていた。
引用されている明石海人や伊藤保の歌が強く心に残る。ハンセン病療養歌人について、さらに深く知りたくなった。
2020年2月21日、青弓社、2400円。