2022年06月22日

片岡絢歌集『カノープス燃ゆ』


「コスモス」「COCOON」所属の作者の475首を収めた第2歌集。
近眼のしづかな少女だつたから雨が降る日は雨と話せた
友人の涙こらふる目を見たり星座のやうに誰もが孤り
マフラーを巻いたら足が見えなくて顔から上が歩く感じす
「えべれすと。仕事の量が、えべれすと」呟きながら歩く同僚
ぬるま湯のやうなあなたのてのひらがうなじにあれば私はうなじ
昼食の稲庭うどん橙や赤が見たくて七味を振りぬ
胎児よりあなたの体が心配と母は言ひたり母のみ言ひたり
絶叫が陣痛室にこだまする はじめて聞いたわれの絶叫
産院の授乳室の灯ひそやかに二十四時間消えることなし
幼児にも玩具は玩具でしかなくて触りたいのは財布とスマホ
スーパーで時々見かける泣き喚く子は、本日は私の子です
数人が死ねばただちに孤児となる子と歩きをり地球の上を

1首目、口数が少なく内向的で雨の日の方が居心地が良かったのだ。
2首目、星座は集団のように見えるけれど実は星の位置はばらばら。
3首目、下句がおもしろい。自分の足先が見えなくて不安定な感じ。
4首目、「えべれすと」のひらがな表記に少し壊れた雰囲気がある。
5首目、全神経がうなじに集中している。ひらがなの多用も効果的。
6首目、七味唐辛子を入れるのは味ではなく色の問題だという発見。
7首目、母以外はそうではないのだ。みんな胎児へと関心が向かう。
8首目、日常において絶叫する機会はない。自分の声に自分で驚く。
9首目、赤子への授乳は昼夜を問わない。それが家に帰っても続く。
10首目、触って欲しくないものに限って興味を示し触ろうとする。
11首目、よその子であれば可愛いなと思うが自分の子だと大変だ。
12首目、子どものためにも私は死ねないという思いが湧いてくる。

2022年5月14日、六花書林、2500円。

posted by 松村正直 at 08:31| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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