料理研究家の著者が、家庭料理は「一汁一菜でよい」という理念にたどり着くまでの道のりを記した本。
若き日のフランスや日本の料亭での修業、父の料理学校の手伝い、父から引き継いだテレビの仕事、レストランのプロデュースや商品開発といった様々な経験を経て、家庭料理の価値を見出していく。
調理場や道具をきれいに手入れしておけば、不思議なことに、仕事に追い込まれた時に道具が味方してくれ、自分(の仕事)を守ってくれていると感じるのです。
毎度「○○を入れてもいいんですか」と確認されます。味噌汁に入れたくないものはあっても、味噌汁に入れていけないものなんてありません。それが味噌汁の凄さです。
料理の決まり事の多くはハレの日のために洗練されたプロの仕事です。ハレの日やプロの仕事が日常の暮らしに入りこんでしまったから料理が「面倒なもの」になったのです。そんな箍はすべて外せばいい。
一人暮らしでも、自分でお料理して食べてください。そうすれば、いつのまにか、自分を大切にすることができるようになっています。
私たちの体は食べたものからできている。食べることは生きることの基本であり、もともと料理は楽しいことなのだ。そんな当り前の事実に気付かせてくれる一冊であった。
2022年5月20日、新潮新書、820円。