2022年06月16日

森まゆみ『『五足の靴』をゆく』


副題は「明治の修学旅行」。2018年に集英社から刊行された単行本に、書き下ろしの「付録一〜五」を追加して文庫化したもの。

与謝野鉄幹、北原白秋、木下杢太郎、平野万里、吉井勇の5名が1907(明治40)年7月から8月にかけて行った九州旅行「五足の靴」の足跡をたどる紀行文である。

同じ学生組でも、東京帝国大学の木下、平野がそれぞれ医学、工学を極めるため真面目に勉強をしていたのに比して、早稲田組の吉井、北原はほとんど学校に行っていなかった。
江戸時代、長崎の人口六万人のうち、一万人は中国人であったという。密貿易を防ぐため竹矢来で囲ったなかで、中国の人たちはどのような暮らしをしていたのだろうか?
この旅、福岡、江津湖、柳河、どこでも舟遊びがもてなしになっている。私が小さい頃も、不忍池でボート、東京湾でハゼ釣りなど、小船で遊ぶことは多かった。
近代になると、雲仙は日本国内の宣教師や上海在住の欧米人たちの格好の避暑地になった。上海から船で一晩寝れば長崎に着いたのだという。
本書を書いた一の動機はまず『五足の靴』にいかに『即興詩人』の影響が大きいかを見ることである。鷗外を敬慕した与謝野鉄幹と若い仲間たちは、西洋に行くことは難けれど、せめて九州の、宣教師がやってきて布教したところ(…)

著者は機会を見つけては「五足の靴」に関する土地を歩き回り、人々から話を聴く。そのフットワークの軽さと好奇心の強さが印象的だ。文学と歴史、地理、文化、産業など様々なものを結び付けて綴る文章は、読んでいて面白いだけでなく多くの示唆を与えてくれる。

2021年11月25日、集英社文庫、800円。

posted by 松村正直 at 08:06| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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