2022年05月07日

石原真衣編著『アイヌからみた北海道一五〇年』


2018年の「北海道命名一五〇年」を祝う行事についての違和感や疑問をきっかけに、30数名のアイヌの人々から寄せられた声や物語をまとめた一冊。

北海道の歴史をアイヌの側から捉え直すとともに、アイヌに対する差別の問題や今後の共生のあり方を示している。

「サイレント・アイヌ」の沈黙はさまざまである。アイヌであることが嫌で隠す。アイヌとして生きたいけれど、それができないから、隠す。アイヌの出自を持つことを知っているが、歴史や物語、文化について何も継承していないがゆえに、何を語っていいかわからない。(石原真衣)
今から五〇年前、二風谷では金田一京助氏の歌碑が建立された。碑文と石に刻まれた寄付者一覧が当時の状況を現代に伝えている。一番驚くべきは、今では悪名高い児玉作左衛門氏の名前もそこに刻まれていることだ。(萱野公裕)
近年、アイヌの文化がもてはやされていますが、アイヌは文化民族なのでしょうか? アイヌを名乗る人、アイヌを名乗れない人、アイヌでない人たちに、アイヌの真の歴史を考えてほしく思います。(戸塚美波子)
アイヌ語教室などで教えてくれる学者さんには、よくぞアイヌ語を勉強してくれた≠ニ感謝の気持ちがありますが、自分の民族の言葉を学者に習わなければならない情けない状況をつくった責任は国にあると思います。(山本栄子)

印象的なのは、アイヌの人々と一口に言っても非常に多様だということである。コミュニティとの関わり方も、住む場所も、祝賀行事についてのスタンスや考え方も、一人一人違う。これは考えてみれば当り前なのだけれど、忘れがちなことかもしれない。

例えば、イベントで和人がアイヌの衣装を着て踊ることについて「一緒にやってくれてありがとう、広めてくれてありがとうという気持ちで接したい」という人もいれば、「アイヌ民族を、和人の一部と貶めているのだ。だから、こんなでたらめが起こるのだ」と反発する人もいる。

もちろん、それは単に正反対の考えということではなく、その根底に先住民族アイヌに対する長い差別の歴史があることを踏まえて考えるべき問題なのだ。

30数名の文章のうち5名の方は「匿名」になっている。その事実こそが、差別が過去のものではなく今もなお続いていることを、何よりも雄弁に示している。

2021年9月25日、北海道大学出版会、1600円。

posted by 松村正直 at 09:37| Comment(0) | 樺太・千島・アイヌ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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