2022年04月24日

井堂雅夫『平成版浮世絵 京都百景』


絵師として長年にわたって活躍した井堂雅夫(1945-2016)の多色刷り木版画の作品集。「清水寺」「三千院」「鴨川」「伏見稲荷大社」「金閣寺」「天橋立」など、京都を舞台にした100の風景が描かれている。

木版画は絵師と彫師と摺師の共同作業。その伝統を守るべく、井堂はギャラリーに併設する形で版元・歡榮堂を立ち上げた。

多色刷り木版画の伝統を継承していく観点からも、木版の世界に生きる職人が、将来にわたってより良い展望を持てるようにすることが必要と考えた井堂は、歡榮堂が平成の版元として、その役割を果たす象徴的な仕事に「京都百景」を位置づけた。

100点の作品にはすべて彫師と摺師の名前が明記され、「21版24度刷り」など版木の数や刷りの回数も記されている。多くの手によって一つの作品が生み出されることがよくわかる。

作品に添えられた短い文によれば、井堂は見たままの風景を描いているだけではない。

この作品に描いた桜の木は実際にはないが、急に桜を描きたい衝動に駆られた。(直指庵)
私は、手前の何もなかった空間に赤い寒椿を活けたくなった。(宝泉院)
木版画の下絵を描く段になって、雪景色の二条城にしようと思い立った。(二条城)

以前、川瀬巴水の展覧会を見た時にも感じたことだが、様々なアレンジが絵には施されており、晴れの景色が雪景色になることもある。
https://matsutanka.seesaa.net/article/483817956.html

これは、「写実」の短歌にも当てはまる話だろう。

2009年5月20日、京都新聞出版センター、1800円。

posted by 松村正直 at 09:43| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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