
2018年から21年までの作品462首を収めた第10歌集。
米川さんの歌集では初めてのソフトカバーだ。
結社の仲間の死や長年住んだ家からの引っ越し、老いた母や義父母の世話など、全体に疲労感の滲む歌が多い。
水やりのお母さんら来ることもなし福祉協議会の花壇の消えて
ママ友はつひに友ではなかりけり道の向かうの銀の自転車
家出むと思ひしことの一度あれど歌に詠まねば思はざるごと
三十年の手紙より残すものを抜く 死にしひと疎遠になりしひとばかり
インド風宮殿のやうなロマネスコも食べる義父されど夫と和解せず
母の家より帰ればかならずおなか空きをがたまの花食べる鵯(ひよ)見る
褒められたき日の息子なり山雀はオレンジの胸ふくふくと来る
植物だけを食べる友ゐて不眠をいふ植物はたくさん夢を見るから
雪うすくしろき海星のかたちなす富士山見えて宮崎へゆく
コロナ大題詠大会はいつ果てむあたらしき題はだれが与へむ
1首目、当り前のように眺めていた光景が、いつの間にかなくなる。
2首目、本来の友とは違って子が大きくなれば疎遠になってしまう。
3首目、歌に詠まなかった、詠めなかったという事実の重みを思う。
4首目、転居に際しての整理。手紙の中では生きていて親しい人々。
5首目、食べ物に関しては頑固ではないのだが、親子関係は難しい。
6首目、上句から下句への展開が印象的。自分が食べるのではなく。
7首目、胸を膨らませた得意そうな様子にかつての息子を思い出す。
8首目、下句が謎めいていておもしろい。植物に支配されるみたい。
9首目、富士山の山頂を見下ろす構図。「飛行機」の省略が巧みだ。
10首目、何かに操られるように誰もが一斉にコロナ禍を詠む時代。
2022年3月23日、本阿弥書店、2700円。