2012年に朝日新聞社より刊行された単行本に「再訪 二〇一八年秋」を加えて文庫化したもの。
東日本大震災発生直後から約一年間、宮城県南三陸町に住み、毎週1回新聞に連載したコラム+写真など計54篇を収めている。
いずれも被災地の人々の暮らしや心情、そして人生が見えてくる内容だ。
被災地では、土砂にまみれた時計の多くが地震の起きた午後二時四十六分ではなく、午後三時二〇分前後で止まっている。津波が押し寄せた時間だ。
被災地の駐在記者をしていて、うれしいことは、地域の人に名前で呼ばれることである。最初は大抵、「記者さん」と呼ばれる。それが次第に「朝日さん」になり、やがて「三浦さん」へと変わっていく。職業も会社名も関係ない。人と人のつきあいになる。
歌津地区の千葉光一さん(八九)の母親の名前は「なみ」だった。一八九六年の明治三陸津波のとき、妊娠中だった祖母のくらさんは、隣の浜まで流された。家に戻ると、くらさんの母と子二人が亡くなっていた。一家は悲しみの中、半年後に生まれた娘に「なみ」と名付けた。
以前、著者の書いた『五色の虹 満洲建国大学卒業生たちの戦後』に感銘を受けたことがある。
https://matsutanka.seesaa.net/article/451019705.html
その後も多くの本を出されているので、さらに読んでいきたい。
2019年2月25日、集英社文庫、550円。