副題は「アイヌ民族による日本語文学の軌跡」。
近代のアイヌ文学を網羅的に取り上げて詳細に論じた一冊。広範な文献を丹念に渉猟して、緻密に論考を組み立てている。
序章ではまずタイトルに関連して、本書で扱う「近現代」「文学」「アイヌ民族」それぞれの定義を示すところから始めている。そうした姿勢が徹底されていていい。
また、注や登場人物の年譜、参考文献、人名索引の提示も行き届いており、今後この分野を論じる人にとって重要な基盤となる内容と言っていいだろう。
登場するのは、金成太郎、山辺安之助、千徳太郎治、武隈徳三郎、知里幸惠、違星北斗、バチェラー八重子、森竹竹市、貝澤藤蔵、貫塩喜蔵、辺泥和郎、川村才登、向井山雄、江賀寅三など。
アイヌ文化のなかでもとくに近現代のアイヌ文学については、その役割の大きさにもかかわらず、いまだ位置づけが十分に定まった(あるいは評価された)とは言えない状況にある。それは近現代のアイヌ文学が、アイヌ語ではなく日本語で書かれたことにより、「日本語文学」として「日本文学」のなかに紛れ、埋もれてしまっているからである。
全524ページという分厚さであるが、アイヌ民族に対する差別やマジョリティの偏見をきちんと正そうとする姿勢が貫かれており、執筆する著者の姿勢に信頼の置ける良書だと感じた。
引き続き、現在同人誌に連載中という「現代編」の刊行も楽しみに待ちたいと思う。
2018年5月31日、寿郎社、2900円。