副題は「故郷と、わたしと、東日本大震災」。
宮城県女川町に生れた作者が、16歳の時に起きた東日本大震災や愛する故郷について記した「詩」「日記」「短歌」「エッセイ」「評論」「写真」を載せた作品集。
生家が全壊し、避難所や親類宅での生活を送るなどした体験が生々しく描かれている。また、故郷の海や町や家族に寄せる思いの深さも印象的だ。高校生から社会人になるまでの成長の姿も見えてくる。
まずは、2011年の「日記」から。
正午前に大きな地震があった。わたしはアップルパイの生地を型に入れているところで、ばあちゃんも仕事が終わって台所にいた。どんどん揺れが激しくなって「外に出ろ!」とばあちゃんが叫んだので、生地だらけの手のまま玄関から出た。津波は少ししか来なかったし、物が落ちることもなかったので、そのあとは普通に家族でテレビを見た。(3月9日)
何度も強い余震が来た。ビスケットや飴をもらって食べた。ノブ子ばっぱが「被災地とかってテレビでよく見っけども、まぁさか、おい達がなぁ」と言った。誰かがラジオをかけている。千人以上の死者・行方不明者がいて、至る所で(特に気仙沼)火事が発生しているらしい。(3月11日)
中学校から戻ってきたカズからつらいことを聞いた。元紀君が犠牲になったらしい。家にいたおっぴさんを助けに行き、津波に飲まれてしまったという。わたしが目撃した最後の彼の姿を思った。(3月14日)
おばあさんは袋に入っていた。メガネおんちゃんが「ばあさん、みずき来たど」と言い、袋を開けた。おばあさんは青黒い顔をして目を閉じていた。口から少し泥が垂れているようだった。“変わり果てた姿”という言葉の意味が分かった気がした。(3月21日)
こうしたつらく悲しい出来事が記される一方で、いかにも高校生といった話題も載っている。
テレビでたくさんの芸能人が被災地への応援メッセージをくれた。嵐もCMに出て「がんばろう日本!」と言っていた。キャー‼がんばるよ〜嵐〜‼(3月24日)
せーちゃんは神田正輝とのツーショット写真を見せてくれた。じゅん君はベッキーに会った。しんちゃんは元気食堂でボランティアをしていた上戸彩にハグしてもらったと言うのでみんなが「ちょっと〜」「何してんの〜(笑)」と言った。みんなといるだけでこんなに笑える!(4月21日)
数学が分からなくて「円と方程式」なんて将来使わないのに!」と言っているミユキちゃんに、みふーちゃんが「明日使うべ!」と叱咤していた。そうだ。将来使わなくても明日のテストで使うのだ。(6月20日)
こんなふうに明るく楽しい話もけっこう多い。もっとも、日記も一つの表現なので、それが実際そのままの明るさとは限らない。自分を励まし元気づけるために書いている面もあるのだろう。
全篇から伝わってくる素直さや誠実さは作者の持ち味と言っていい。それとともに、表現手段を持っている人の強さやたくましさも感じる一冊である。
2022年1月4日、本の森、1800円。