2022年03月02日

山名聡美歌集『いちじくの木』

著者 : 山名聡美
砂子屋書房
発売日 : 2021-12-23

2016年から2020年の作品288首を収めた第1歌集。
仕事をして、料理をして、自分で自分を支えている。

話すこと尽きてしまった月のした骨の名前を順番によぶ
土を離れふたたび土に落つるまでの蟬の時間にそそぐ陽光
駅前の青空市でなんとなく買いたるカボチャ電車にゆれる
開かない日もあるけれど止まり木のような一冊かばんにいれて
コンクリの擬木のごとくかわきたる市役所わきのコナラの根本
うろこ雲吊り輪のなかをうごかずにうごいているのは街と電車だ
コンビニのおにぎりだけどみそ汁をつくれば人の感じがもどる
休職の人の机のひきだしをあけてときどき消しごむ借りる
階段の途中のような昼休みコーヒーカップの耳につかまる
階段を走って降りる若猫の背中の肉の動くを愛す
きしきしとひきだしだけを交換し課内異動は完了したり
「ヤマネさん」呼びまちがえられてそのままにしばらく暗いところで暮らす
泣きながらたべたカレーの熱さとかそういうものでできてるからだ
その店を教えてくれた友達がいなくなっても店には通う
唇を人にぬらせて死のことを少し思いぬ春のデパート

1首目、下句に意外性がある。身体の各部の骨の名前ということか。
2首目、蟬の成虫の短い命を「そそぐ陽光」で鮮やかに切り取った。
3首目、思い付きで買ってしまったけど持ち帰るのがなかなか大変。
4首目、おそらく心の支えになる本。お守り代わりにもなっている。
5首目、本物の木が擬木に似ているという倒錯がいかにも現代的だ。
6首目、電車での通勤。動かない雲を見ながら職場へ運ばれていく。
7首目、みそ汁だけでも自分で作ると立派な食事という感じになる。
8首目、消しごむを使う時にだけ、居ない人の存在が浮かび上がる。
9首目、結句の「つかまる」がいい。かろうじて自分を支えている。
10首目、背中の肩甲骨や肉の動きが、毛皮越しに生々しく見える。
11首目、引出しを空にするより早い。あっけなく終わってしまう。
12首目、名前を間違えられて、動物のヤマネのような気分になる。
13首目、その時の悔しさや悲しさが今は自分の一部になっている。
14首目、人と人との関係はこういうもの。ふと思い出したりする。
15首目、店員に口紅を塗られつつ自分の死化粧を想像してしまう。

「京都」「熱海」「小豆島」「大阪」「尾道」など、旅の歌が良いアクセントになっている。あと、時々出てくるお母さんもユニークだ。

2021年12月23日、砂子屋書房、2500円。

posted by 松村正直 at 07:07| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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