今は無き短歌新聞社の「現代短歌鑑賞シリーズ」の1冊。
『みだれ髪』から『白桜集』まで与謝野晶子の作品を鑑賞しながら、その生涯や特質を描き出している。ちょうど『定本与謝野晶子全集』全20巻(1979〜81、講談社)が刊行された時期の著作で、
晶子の異常なまでのエネルギーの一端にふれて、改めて総合評価の俟たれる作家であることを感じないわけにはいかない。
と第1章に記している。「あとがき」によれば、この全集の刊行は晶子の生誕100年を記念してのものだったようだ。
その後も、『与謝野晶子評論著作集』全22巻(2001〜03、龍溪書舎)や『鉄幹晶子全集』全40巻(2001〜21、勉誠出版)が刊行されているが、いまだに晶子と言えば『みだれ髪』=恋の歌のイメージばかりが強いのはなぜなのだろう。
北海の鱒積みきたる白き帆を鐘楼に上り見てある少女(をとめ)
『舞姫』
磯の道網につながる一列のはだか男(を)たちに秋の風ふく
『常夏』
空樽の中より出でし大やんま雲に入る時夕風ぞ吹く
『朱葉集』
いさり火は身も世も無げに瞬きぬ陸は海より悲しきものを
『草の夢』
筆とりて木枯しの夜も向ひ居き木枯しの夜も今一人書く
『白桜集』
1984年1月10日初版、1992年5月1日4刷。
短歌新聞社、1900円。